りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

東京観光(中島京子)

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最近の中島さんの短編には「凄み」を感じます。直木賞を受賞したばかりですが、芥川賞を獲っても不思議ではないと思える作品がぎっしりと詰まった短編集です。最近の芥川賞作品は、本気でつまらないもんなぁ。

「植物園の鰐」
鰐の涙は見せかけだけで本当は悲しくなんかない。ただの嘘っぱちなんだ。でも、一緒に暮らしていた5年の間に何度も諍いを起した末に事故死してしまった鰐と会う希望を抱いて植物園に行く女性は、鰐の涙の真実を求めているのです。

シンガポールでタクシーを拾うのは難しい」
結婚5周年のお祝いに出かけた超格安のシンガポールツアーで諍い続ける夫婦。でも相手を許せなくなったら終わってしまいます。そんな時は、ナイトサファリで夜に愛情を交わす動物たち見に行こう!シンガポールで雨の時は、絶対タクシーがつかまらなかったことを思い出しました。

「ゴセイト」
放課後にだけ現れる生徒「ゴセイト」と会話した高校生時代を思い出す女性。ゴセイトの古野君は失恋するのですが、それは自分の失恋でもありました。ゴセイトとは、自分の心の声だったんですね。

「天井の刺青」
階下の部屋に住む男は別の女性を追うストーカー。彼の告白を聞いているうちに、全部自分のことを言われているようだと思った女は・・。男女の関係は微妙なものです。

「ポジョとユウちゃんとなぎさドライブウェイ」
ポジョのジョは「情緒不安定」の「ジョ」でしたが、それを必死で封じ込めて辛抱強くなってからは、もうあだ名の由来も忘れていました。不器用ながら処世術を獲得したポジョに対して、ユウちゃんは変わっていません。綺麗なのに好きな男と距離を取れないばかりに、すぐに嫌われてしまいます。でも彼女と一緒に砂の上に寝転んだ気持ち良さはずっと忘れないかも・・。

「コワリョーフの鼻」
「未来の人類は鼻がなくなる?」という他愛ない話題がゴーゴリの「鼻」と繋がり、さらには主人公が夫に対してずっと隠していた秘密と繋がっていきます。うまい!アンソロジー『Re-Born』に収録されていた作品です。

「東京観光」
ずっと前、ケータイも普及していなかった頃、保険外交員へのご褒美研修旅行で東京に行った時のこと。東京タワーも皇居も雷門も観光できなかったけど、東京の一番いい所に行けました。そこは、海外の家族と無料で話す順番を待つ黒い髪の女たちが集う、料金カウントが壊れた灰色の公衆電話があった場所。偶然知り合った、安ホテルに無断宿泊中のマリアナが誘ってくれた場所でした。

2011/10