りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

サヴァイヴ(近藤史恵)

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自転車ロードレーサーのプロフェッショナルの世界を描くサクリファイスエデンに続く第3作は、前2作の主役で欧州に渡った白石チカのみならず、彼が日本で所属していた「チームオッジ」のメンバーたちもヒューチャーしたスピンオフ的な短編集になっています。

「老ビプネンの腹の中」フランスチームの一員として石畳(パヴェ)の上を走る過酷なレースに出場する白石に向かって同僚のエースが語るフィンランド神話は、巨大な神に呑み込まれた英雄が知恵を使って生き延びるというものでした。自分たちの境遇も、得体の知れない大きなものに呑み込まれているように感じる白石に届いたのは、以前のチームメイトがドラッグに蝕まれて死亡したニュース・・。

「スピードの果て」白石の元同僚で天才スプリンターの伊庭は、事故を目撃した恐怖感から立ち直れるのでしょうか・・。一番早く走れば、早く終わる!

プロトンの中の孤独」チームオッジで孤高のエースだった石尾にも、新人時代があったのですね。エースポジションを巡る暗闘に嫌気が差した石尾にチーム競技の面白さを教えたのは、一度スペインで挫折した経験を持つベテランの赤城でした。

レミング不動のエースとなった気難しい石尾にチームメイトが感じる委縮感を和らげるのは、競技人生の終わりを予感する年齢となった赤城の役割。リーダーがしっかりしていれば、レミングの集団だって海に落ちることはないんです。

「ゴールよりももっと遠く」35歳になった赤城は若手の育成係として指導者の道を選ぼうとしています。エースの石尾も下り坂に差し掛かる32歳。スポンサーとなって新興チームからスターを作ろうとするIT企業に感じるのは反発だけではありません。でもまだ、まだツール・ド・フランスに行ける可能性はゼロじゃない!

「トウラーダ」ポルトガルのチームに移籍した白石は闘牛を見て、思い出したくない記憶が甦り体調を崩してしまいます。でも彼は結局、走ることが好きなんですね。アシストとしての使命感も、ヨーロッパのプロツアーで走るという自負も二の次で、ペダルを踏んで風を感じることが楽しいから、ここにいるんです。^^

本当はこんな奇麗事ではないのでしょうが・・。

2011/10