「ウクライナ」の語源は「非常に遠い場所、世界の端、国境地帯」だそうですが、もともとそこはスラブ人発祥の故地。14世紀から17世紀半ばまでポーランドの一部だった時代もありました。しかしウクライナ・コサックの反乱によって一部が新興正教国モスクワの一部となったのに続き、18世紀のポーランド分割の結果、大半がロシア領になってしまいます。
しかし、ある人にとっての「自由と夢物語の魅惑の地」が、別の人にとっては「空虚で物悲しく切ない地」であったように、その思いは屈折せざるを得ません。著者はそれらの実例を、ポーランド人の絵画や文学を通じて検証していきます。
画家たちからは、「収穫」や「耕作」を好んで描いたレオン・ヴィチュウコフスキ、「羽ばたく黒鶴」や「ぬかるみ」や「馬」を得意としたユゼフ・ヘウモンスキ、さらにヤン・スタニスワフスキの「ヒレアザミ」や「ヒマワリ」が紹介されます。どの作品もテーマとなっているのは「大地」ですね。
文学界からは、ウクライナを「魔風吹き荒れる凄惨な場所」としたゴシチンスキや、「アルカディア」と詠んだ詩人のザレスキやマルチェフスキが紹介されます。1830年のワルシャワ蜂起に加わって、フランスに亡命した文人も多いとのこと。分割下のポーランドにおける19世紀ロマン主義には、民族主義的な色彩が色濃く反映されていたようです。
そういえば2012年の欧州サッカー選手権はポーランドとウクライナの共催です。意外な組み合わせと思いましたが、背景にはこんな歴史や交流があったのですね。本書で紹介された人たちのことを誰も知らなかったほど、遠い国々なのですが・・。勉強になりました。^^
2011/10