りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

週末(ベルンハルト・シュリンク)

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朗読者帰郷者で、過去の「ナチスの罪」と関わる人々を描いた著者が、この作品では同時代に経験した「赤軍派テロ」と向き合います。

 

かつてドイツ赤軍派テロを首謀して何件もの殺人を犯した男イェルケが、恩赦を受けて20年ぶりに出所。男が子どもの頃から親代わりになって「守ってきた」姉は、郊外の邸宅を準備して、旧友たちを招くのですが・・。

 

当然ながら刑務所の外では20年の歳月が流れていて、かつての旧友たちはそれぞれの人生を歩んでいましたが、彼らも否応なしに「過去」に思いを巡らせざるを得ません。今は実業家として成功している男は、人を殺す気持ちについて明け透けに尋ねて皆を白けさせますが、それはイェルケを革命運動の象徴として再びかつぎあげようとする若い活動家と表裏一体のものに思えます。イェルケだけは20年前と変わっていないと思い込んでいるのですから。一方、当時イェルケに想いを抱いていた女性の関心は既に9.11テロに移っていますし、牧師となった女性はひたすらに皆の和解を願います。彼女たちの態度は、無関心に近いですね。

 

全てを冷静に観察しているジャーナリストになった男性は、イェルケから密告者ではないかと疑われていました。そしてもうひとり、イェルケを問い詰める若者が登場します。イェルケは過去のテロ行為を悔いているのか、誇りに思っているのか。彼の現在の心境は、旧友たちにどのような影響を与えるのか。大統領演説で今回の恩赦に到った事情が語られたときに、明らかにされた真実はほろ苦い。

 

著者がたどり着いたのは、過去の総括なのか、未来への希望なのか。世代間の相互理解は可能なのか。結末に以前の作品のようなキレ味は感じなかったのですが、それだけ問題が現代的で重層的であるということなのでしょう。

 

2011/10