とはいえ、陸軍参謀として満州で終戦を迎えて11年ものシベリア抑留生活の後に関西の繊維商社に入社。数年後に業務部長に抜擢されて以降、様々な案件で重要な役割を果たして総合商社へと発展させた会社でトップに上り詰めた瀬島氏の半生は、本書の主人公「壱岐正」の人生と大きく重なります。
日本の戦後高度経済成長の時期に、航空自衛隊の次期戦闘機選定に絡むロッキードとグラマンの争い、日米自動車会社の資本・業務提携、そして中東での石油開発という巨大プロジェクトに携わった主人公は、社長に勇退を進言した後に自らも会社を辞め、長期シベリア抑留者の親睦団体の会長となって、現地で死んだ日本人の墓参りと遺骨の収集に行くとの第三の人生を選択します。
タイトルの「不毛地帯」とは、主人公の人生を変えたシベリアと中東の砂漠を指しているとのことですが、ビジネスに辣腕を振るいながらも自分の生き方に疑問を抱き、ついには第三の人生を選ぶ主人公の身の振り方を考えると、利権絡みで政治と醜く結びつかざるを得なかった商社活動全体を指して言っているように思えます。
やはり主人公「壱岐正」の人物像は、瀬島氏のキャリアを借りて著者が作り上げた、モデルとは似て非なるものと言えるのでしょう。
山崎さんの著作はどれもそうなのですが、本書でもビジネスが丹念に描かれます。人脈を財産とする情報と交渉の戦いとして描かれる商社活動は、一種異常な世界に思えますが、本当は企画力の勝負なのでしょう。単なる仲介販売業から事業投資に軸足を移した現代の商社では、一層その傾向が強まっているようです。優れた商社マンになるには、担当事業の構造を深く理解しなくてはなりませんね。
2011/10