りぼんの読書ノート

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カラマーゾフの兄弟 エピローグ・ドストエフスキーの生涯(ドストエフスキー)

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短い「エピローグ」では、主人公たちのその後が描かれます。
善悪の深淵を合わせ持ちながら崇高なものへの憧れを失わないロシア人独自の生命力と魂を「カラマーゾフシチナ(カラマーゾフ気質)」として描き出した本書は、それだけで傑出しているのですが、少年たちがアリョーシャに「カラマーゾフ万歳」と唱和する「エピローグ」は、ついに書かれなかった「続編」への「プロローグ」的な位置づけもあるのでしょう。

第5巻きの大半は、訳者・亀山郁夫氏による「ドストエフスキーの生涯」と「解題」に費やされていますが、ここで多くを述べることは控えておきましょう。

処女作『貧しき人々』で華々しくデビューした著者は、スランプに陥って社会主義サークルに入って逮捕され、銃殺刑執行直前に皇帝からの特赦によって減刑されてシベリアで服役。この間に理想主義者的な社会主義者からキリスト教人道主義者へと思想的変化があったとされることを記しておきます。

もうひとつ。賭博癖があり、その結果として生活は窮乏し、借金返済のため出版社から前借りをして締め切りに追われる日々を送っていた時期が長かったことも記しておきましょう。2番目の妻となったアンナ・スニートキナとドイツに新婚旅行に行った際の破滅的な言動を小説化した、レオニード・ツィプキンの『バーデン・バーデンの夏』を読んだときには「誇張しすぎ」と思ったものですが、意外と真実に迫っているのかもしれません。

2012/8