りぼんの読書ノート

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一刀斎夢録(浅田次郎)

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「一刀斎」とは「斉藤一」を逆から読んだ呼び名です。壬生義士伝輪違屋糸里に続いて、「浅田版新撰組3部作」の最後となる作品は、新撰組三番隊隊長として悪名高い斉藤一に、幕末という時代を語らせた物語。

維新から西南戦争を経て、日清・日露戦争によって国威を発揚した明治の世が終わり、大正という新時代と乃木大将の殉死に違和感を覚えていた近衛士官の剣士・梶原中尉が尋ねた老いた元巡査男こそ、激動の動乱を生き延びた斉藤一でした。斉藤は梶原に向かって、龍馬暗殺、鳥羽伏見、甲州会津での敗戦から西南戦争と続く、壮絶でありながら哀切に満ちた時代について語り始めます。

梶原は斉藤のすべての物語が、敗残の新撰組についてきた無名の少年隊士・鉄之助につながっていくことに気づきます。生まれた時から居場所がない少年を拾ってくれた吉村貫一郎を鳥羽伏見で失い、その後も次々と死に行く隊士たちから「生きよ」と追い出される度に疎外感をつのらせてきた少年と斉藤は、西南戦争で対峙するのですが・・。

斉藤が「生き延びた」のではなく、「死に損なった」のであること。しかし、ささやかな幸福を素直に喜べる晩年をおくることができている理由。そして斉藤は、孫ほどに年の離れた現代の天才剣士・梶原に何を伝えたかったのか。

まるで「見てきたような浅田講談」ですが、著者の思いはひしひしと伝わってきます。浅田節全開の、壮絶な「敗者の物語」です。

2011/6