りぼんの読書ノート

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ラ・ミッション-軍事顧問ブリュネ(佐藤賢一)

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幕府に招聘されて近代的な精鋭部隊「伝習隊」を鍛え上げたフランス軍事顧問団は、鳥羽伏見の戦いの直後に解任されました。強大な戦力を有していた徳川幕府は、闘わずして自壊したのです。幕府勢力の残党が戊辰戦争を起こした時、ブリュネ中尉とフランス人下士官たちは、教え子たちと共に戦う道を選びます。彼らは箱館五稜郭を奪取して、エゾ共和国の独立を図ったのですが・・。

数多く描かれた時代の物語ですが、「フランスの視点から見た幕末史」はなかなか新鮮です。「日本への影響力レース」でスタートダッシュしたアメリカが南北戦争で脱落した後、幕府に取り入って先頭を走ったのはフランスだったのですね。地方革命勢力にすぎない薩長に肩入れしたイギリスは、大穴を狙ったようなもの。欧米列強に「局外中立協定」を結ばせたのは、内戦が起これば敗色濃厚と判断したイギリスだったようです。

しかしこれが、後にイギリスの手を縛ることになります。公には内戦に手出しできなかったため日本の植民地化を進められなかったイギリスが、フランスが北海道の植民地化に乗り出したと判断したというエピソードなどは、いかにもありそう。しかしブリュネらの行動は、中立を指示した本国の政策に反していたのです。その結果、誰も日本を植民地化できなかったというストーリーは、ちょっと出来過ぎでしょうか。

しかし本書の醍醐味は、フランスの騎士道精神(エスプリ)と日本の武士道精神が、火花をあげて交感していく様子ですね。榎本、大鳥、土方らと生死を共にしたブリュネは、最後に「ちょっとした奇跡」を起こします。脱走兵であったブリュネ自信の運命にも「ちょっとした奇跡」が待ち受けているのですが、こちらは史実です。

2015/12