りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

カーラのゲーム(ゴードン・スティーヴンズ)

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期待せずに手に取った小説ですが、抜群におもしろい。こんな本に出会うと得した気になるのと同時に、ネタバレを書きたくなってしまいます。

1994年のボスニアセルビア人勢力範囲に包囲されて孤立したムスリムの町を絶え間ない砲撃が襲います。和平交渉は進展せず、国連も行動を起こせないでいる中で、命令が下りなかったために何も出来ずに帰還する英国SAS隊員を偶然救助した女性カーラは、その男フィンから衝撃的な言葉を聞くことになります。世界は何も持たないボスニアを救わない・・と。

砲撃で最愛の夫と一人息子を失って絶望の底に追い込まれたカーラは、自らの手で運命を切り開こうとするのですが、それはイスラム原理主義のテロリストへと繋がる道でした。そして10ヶ月後に、カーラはハイジャック事件のリーダーとして登場します。それは自滅への道であるように見えました。敢然と闘わない者など誰も救ってはくれないけれど、ボスニア人がテロリストとなるなら、世界はボスニアを見放す口実を手に入れるのですから。

しかし、カーラが行なった要求は、全世界の意表を衝くものだったのです。今も新たなボスニアの町が砲撃を受けている中、世界を相手にして自分のルールで闘いを挑もうとする「カーラのゲーム」が行き着く先は・・。そして、ヒースローに着陸したハイジャック機に突入するフィンのとった行動は・・。

終始セルビア人勢力が優勢であり、おぞましい「民族浄化」すら起きたボスニア内戦が、NATO空爆介入によって和平に持ち込まれたことは、まだ記憶に新しいものです。カーラのような派手な闘いではないにせよ、劣勢の中で世界を味方につけるために闘った女性たちも、数多くいたのでしょう。

2011/6