りぼんの読書ノート

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柳生武芸帳(五味康祐)

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上下巻を合わせて1380ページもある大作で、格調高い文語調。しかも未完。しかし、めちゃくちゃおもしろい。

戦乱も治まり太平の世に向かおうとしていた三代将軍家光の時代。大目付柳生但馬守宗矩が葬り去ろうとしていたのは3巻からなる「柳生武芸帳」。そこに記されている内容は、柳生一門の高弟たちの名前と太刀筋にすぎないのですが、そこに隠されている秘密は、皇室と将軍家に関わる過去の重大事件だというのです。これが顕れれば、柳生一門はおろか、幕府も揺らぎかねないという大秘密!

一方で、柳生とは長年の対立関係にあった陰流の超絶の達人、山田浮月斎も武芸帳を追い始める中で、宗矩は決断を迫られます。すなわち散逸している武芸帳を消すのか、それとも名を記されている柳生の高弟たちを消すのか、というのですから凄まじい。

江戸柳生の宗矩と十兵衛、友矩、又十郎の息子たち、山田浮月斎と陰流の高弟である霞の多三郎と千四郎、さらに江戸柳生とは一線を画す尾張柳生の利厳や、竜造寺家の再興を企てる夕姫たち、ご意見番の大久保彦左衛門、春日の局、幕閣の土井利勝や松平伊豆守らも絡んで、人物相関は複雑に入り乱れてきます。さらには中国や朝鮮も!

柳生の高弟たちは次々と仆れ、直接対決した宗矩と浮月斎も、十兵衛と霞の兄弟も相討ち状態で深手を負っていく中で、武芸帳は誰の手に収まるのでしょうか。そして満を持して登場してきた、宮本武蔵が果たすことになる役割とは・・。

まさにここからが怒涛の展開で、面白さが凝縮されてくるはずの終盤に差しかかったところで、「未完」というのですから残念です。作者が死去されたのですから、仕方ないのですが・・。

しかし、です。この作品は「未完」でありながら多くの人を惹きつけたようで、過去何度も映画化、ドラマ化されているんですね。過去の配役を見ると、主役級の柳生十兵衛と霞兄弟に三船敏郎鶴田浩二近衛十四郎松方弘樹北大路欣也など、そうそうたる名前が連なっていることが、いかに人気ある作品かということを物語っています。

2011/6