りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2006/10 テヘランでロリータを読む(アーザル・ナフィーシー)

10月は、「本を読むこと」について色々考えさせられました。小説を「書き手と読み手の闘争の場」とする佐藤亜紀さんからは、「読むこと」の厳しさに身が引き締まる思いをさせられましたし、監視社会のテヘランで「女性だけの読書会」が開かれていたとの事実からは、読書できる幸せをあらためて感じさせられました。

現代と近未来のアメリカを描いた2作も、視点の鋭い秀作です。次点にあげた作品も、Best5に入れたいものばかりでした。

1.テヘランでロリータを読む (アーザル・ナフィーシー)
監視社会のテヘランで、禁じられた小説を読んでいた女性たち。他者への思いやりに欠け、自己の欲望と価値観のみに従う人々が犯した罪が、小説でも、現実の世界でも、いかに重いことか・・。「小説を読むことは、他者を理解する想像力を養うこと」なのです。精神の自由を求めて果たせなかった女性たちの無念さも伝わります。

2.小説のストラテジー (佐藤亜紀)
小説が「「書き手と読み手の闘争の場」とは、なんと激しい主張! 小説をも、絵画や音楽などの芸術の一分野と位置づけて、「芸術を楽しむには、芸術を理解する能力が必要」との厳しさには、「ごめんなさい・・」としか言いようがありません。久々に、芸術論で感動を覚えました。

3.アメリカ第二次南北戦争 (佐藤賢一)
女性大統領が暗殺され、黒人が大統領になったアメリカが分裂。調査のために日本政府から派遣されたジャーナリストが見たのは、多くの矛盾を抱えながら、独りよがりで無寛容なアメリカの姿。「世界の警察官」アメリカが、自国のことで手一杯になったら、世界で何が起こるのか、日本や欧州や中東はどう動くのか?

4.ニューヨーク地下共和国 (梁石日)
9.11テロによって、地下に眠っていた「都市のカオス」が地上に姿を現しはじめたかのような、現在のアメリカの姿。権力も反権力も、世界の良心すら巻き込んでいく、巨大な混沌を描こうとしたこの作品は、壮絶な失敗作かな。でも、インパクトはめっちゃ強烈なのです。

5.家守綺譚 (梨木香歩)
亡き友人の実家で起こる様々な異変に出くわす征四郎。サルスベリの精、狐、狸、竹の花、河童、小鬼、桜鬼、人魚・・。四季折々の天地自然の「気」と共存が可能だった時代。わずか100年前の日本が、美しい文章で淡々と綴られます。異界に通じた飼い犬ゴローが、なかなかいい味出してます。セリフはないんですけどね。




2006/11/5