りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2011/2 逆光(トマス・ピンチョン)

北方謙三さんの『楊令伝』全15巻が完結しました。賛否両論ある幕切れでしたが、『水滸伝』全19巻から続く超大作の完結に、まずは感謝。緊張感に満ちた独特の「北方ワールド」をたっぷり堪能させていただきました。

でも今月の1位は、1700ページを超える超大作の『逆光』です。まるまる1週間かかりましたので、「その価値はあった」と思わないわけにはいきません。^^;
1.逆光(トマス・ピンチョン)
歴史小説にしてSF、恋愛小説にしてポルノ、テロ小説にして大河家族小説」と紹介文にあるように、第一次世界大戦によって終焉を迎えることになる「19世紀末」という時代を、多面的に描いたカオス的小説です。アメリカ中西部の鉱山で殺害された無政府主義者の一族と、飛行船に乗って世界を飛び回る「偶然の仲間たち」の物語が交錯するときに生まれてきたのは「祈り」だったようです。

2.災害ユートピア(レベッカ・ソルニット)
地震や洪水などの大規模災害を被災したとき、人々はパニックに陥ったり、暴徒化するとの「性悪論」的な通説を、豊富な実例調査が覆していきます。パニックに陥るのは、むしろ、既得権を失うことを畏れる支配層だというのです。災害の最中に自然発生的に誕生する「相互扶助共同体」は、仲間意識と利他精神に満ちた一種のユートピア・・との著者の主張は理想論とも思えてしまいますが、人間性をもっと信頼しなくてはいけませんね。

3.ライオンの皮をまとって(マイケル・オンダーチェ)
キュビズム小説」とも呼ばれるオンダーチェの作品では、まるで小説で言及される芝居で主役がまとう皮のコートが次々と渡されていくかのように、主人公が入れ替わっていきます。ひとつひとつの断片的な物語から浮かび上がってくるのは、欧州からの移民によって作られたトロントの成り立ちです。本書の物語はさらに『イギリス人の患者』に繋がっていくのです。

4.小さいおうち(中島京子)
直前に書かれた『女中譚』は、永井荷風林芙美子、吉屋伸子などの小説に登場する女中に語らせることによって、「人間としての女中」を生き生きと描いた作品ですが、本書はさらに一歩踏み込んで、大正・昭和期の「女中文化」を再構築しているかのよう。若い女中タキと美しい若奥様との、濃密な心の交流が明らかになるラストは見事です。


【祝・完結】
楊令伝15(北方謙三)


2011/2/27記