今年も最後に1年を振り返っての「ベスト本」を選んでみます。
長編小説部門(海外)
バウドリーノ(ウンベルト・エーコ)
大傑作『薔薇の名前』が「中世における異端」をテーマとした物語であるとしたら、この本は「中世における虚構」をテーマとした作品といえるでしょう。権威や保身や願望のために人々が真実と認めざるを得ない「嘘」を語る主人公は、自分が生み出した虚構を背負い続ける哀しみに気づくのですが、難しく考える必要はないのでしょう。「暗黒の中世」が生み出した、多様で多彩な虚構を楽しめる作品です。長編小説部門(日本)
なずな(堀江敏幸)
作家としては「理詰め」に過ぎる作品を書かれる方との印象を強く持っていましたが、この本は「読んでおもしろい小説」にまでこなれています。生後2ヶ月の弟夫婦の娘を預かった主人公の数週間の「イクメン生活」が丁寧に描かれ、「かけがえのない人生」に思いを馳せる地点にまで読者を誘ってくれるのです。宮部みゆきさんの『あんじゅう 三島屋変調百物語事続』とどちらにするか悩みましたが、昨年は『小暮写眞館』を選んでいますので、こちらにしました。世間では高野和明さんの『ジェノサイド』が高評価だったようですが・・。
短編小説部門
神様2011(川上弘美)
隣に引っ越してきた律儀なくまと散歩するというできごとを淡々と書き綴って、「悪くない一日だった」とするデビュー作『神様』が原発事故後の出来事としてリメイクされました。「生きることはどんな時でも大いなるよろこびである」とのごく普通の言葉が、破壊力を持って迫ってきます。ノンフィクション部門
災害ユートピア(レベッカ・ソルニット)
大震災・津波災害のニュースを見て、この本のことを真っ先に思い浮かべました。大規模災害の中で「仲間意識と利他精神に満ちた一種のユートピア」とも言うべき相互扶助共同体が自然発生的に誕生するという著者の主張が実現したのですから。パニックを起こすのは支配層であり、大規模災害は権力の転覆をも起こすという著者のもうひとつの主張も、残念なことに実現してしまったのですが・・。対抗はトーマス・ヘイガー著『大気を変える錬金術』でしたが、今年は文句なしにこの作品で決まりです。
今年も素晴らしい本とたくさん出合えました。2012年もいい1年にしたいものです。家庭も、仕事も、読書もね。それと健康も。^^ 来年もよろしくお願いいたします。
2011/12/29