りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

下流の宴(林真理子)

イメージ 1

「一億総中流」と言われていた時代があったのは、今や昔。「現代の日本が格差社会になっている」というのは既に常識ですが、何世代にも渡る蓄えがあるわけでもない中流家庭が下流に転落するのも、たやすいことのようです。

それなりの教育を受けて、平穏な家庭を営んでいる主婦・由美子の悩みは、高校中退のまま定職も持たずに20歳を迎え、対戦ゲームで知り合った年上の女性と結婚しようとしている息子のこと。学歴至上主義の本音をオブラートにつつんで、幼い頃から息子の教育に配慮し、押し付けや強制はせず、自然に知的関心を喚起するように育ててきたのに、上昇志向皆無で頑張ることは無意味・・という青年に育ってしまったんですね。

それでも、いつか息子は大検を受けて進学してくれるものと期待していた由美子にとって、「下流の女」と結婚して「下流生活」を固定化することは絶対に許せないこと。沖縄の離島の飲み屋の娘というタマちゃんに向かって、差別感覚満載の本音トークで非難をぶつけてしまうのですが、「売り言葉に買い言葉」でカッとしたタマちゃんが一念発起してなんと医大受験を目指すというのだからおもしろい。果たして彼女の受験生活は・・。

タマちゃんの沖縄のお母さんの逞しい生き方はステキだし、その血を引いたタマちゃんの頑張りには、彼女の受験勉強に協力する脇役たちと同じ視点で応援したくなります。

地方の名家であった医師の娘で、早くに父を亡くしてからは女手ひとつで娘を育て上げた、逞しい上昇志向を持った母の影響を受けた由美子の学歴至上主義は、同感はできなくても理解できます。上流志向が激しい由美子の娘・可奈の、玉の輿を狙うイタい努力だって、まだ受け付けられる。

でも、主人公の翔にはついていけませんでした。とりわけ、はじめは翔の母を見返すために受験勉強を始めたタマちゃんの頑張りぶりにも引いてしまうなんて「情けない」の一語につきます。危機を感じる能力もなく、ただ単に生きている姿からは、「退化」という言葉が浮かんできてしまいました。

本当に、こんな青年が増えているのだとしたら、やっぱり日本の将来は暗いのかも。いや、人類が全員こうだったら、それはそれで素晴らしい生き方なんでしょうが、周囲の国々には狩猟民族系がたくさんいますので・・。

2011/3