りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

平ら山を越えて(テリー・ビッスン)

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河出書房新社奇想コレクション」の最新刊に、ふたりジャネットの作者が再び登場。いちおう「SF作家」に分類されていますが、他を寄せ付けない奇想ぶりは健在です。

平ら山を越えて:山越えをするトラック野郎が拾ったヒッチハイクの少年は、かつて家を飛び出した頃の自分を見るようで・・という話なんですが、アパラチア山脈地殻変動で3万メートル(ほとんど宇宙!)の高さになっちゃってるんですね。山越えは大変です。

ジョージ:若い夫婦が授かった赤ちゃんには羽が生えていました。医者はその子のために早く手術を受けるように勧めるのですが・・。

ちょっとだけちがう故郷:寂れたグラウンドのフェンスが旧式飛行機に姿を変えていき、少年たちを「ちょっとだけ違う町」に連れて行きます。そこは医者からも家族からも見放された少女が健康でいられる町でした。少年たちはその町に少女を残していくのです。

ザ・ジョー・ショウ:銀河のかなたの知的生命体が一時的電磁存在の姿で、1人暮らしの女性のTVを乗っ取って要求したこととは? ちょっとエロティックな掌編です。^^

スカウトの名誉:ホモ・サピエンスとの闘いに敗北しつつあるネアンデルタール人との一時的な共同生活の記録がメイルで届きます。誰が何のために?

光を見た:月面での異星人との接触は「ファースト・コンタクト」ではありませんでした。異星人に頭をなでられて恍惚となってしまう人類とは、異星人の何だったのでしょう。

マックたち:加害者のクローンに個人的復習を果たすことが「被害者の権利」なんです。大量殺人者のクローンが大量に製造されたのですが、その中に本物の加害者がいたとの噂が流れます。168人が死亡したオクラホマ連邦政府ビル爆破犯ティモシー・マクベイの処刑が、被害者の遺族に公開されたことに触発された作品。クローンの消息を訪ね回っているのは誰?

カールの園芸と造園:草木が自生できなくなった時代の有機造園業者の仕事は、まるで緊急医療体制のよう。最後の森林(7本です!)が枯れ果てたとき、手伝いの少女も崩れ落ちます。彼女の名はガイア。

謹啓:強制的な人口調節が必要となった時代。70歳以上の老人に「赤紙」が届きます。でも「死よりも悪いこと」もあったのです。究極のディストピアSFです。

ラスト3作の左翼がかったブラックな作風は最高ですが、はじめの3作のように叙情性溢れる短編もいいですね。「ジョージ」のエンディングはとっても爽やかでしたし。

2010/10