りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

隔離小屋(ジム・クレイス)

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文明は荒廃し、盗賊団は跳梁し、自然は猛威をふるう、時代不明の「アメリカ」。中世に逆戻りしたような世界で細々と生き延びている人々の間には、2つの熱病が蔓延していました。ひとつはペストのような伝染性の死病であり、罹患した者は直ちに隔離されます。もうひとつは、大陸のはるか東方、海を越えた彼方に理想郷があるとの伝説であり、多くの人々が、ひたすら東の海岸を目指して巡礼者のように歩き続けていました。

ある湖のほとりにある船着場の村が、湖から湧き出した毒ガスによって一夜にして全滅した夜に、主人公の男女が運命の出会いを果たします。伝染病にかかって、山の中に立つ隔離小屋に置き去りにされていたマーガレットと、兄とともに東の海岸を目指していたものの、足を痛めて山中にとどまったフランク。

危機一髪で難を逃れた2人はともに東へ向かうのですが、彼らを待っていたものは飢餓と疲労だけではありませんでした。盗賊団の襲撃、奇妙な宗教団体、絶望する人々・・。そして、ようやくたどり着いた東の海岸で2人が見出したものとは?

唯一の希望が「アメリカから自由になる望み」とは、何とも皮肉な世界観ですが、同時期に書かれたコーマック・マッカーシーザ・ロードと共通するものがありますね。『ザ・ロード』の世界には果てしない絶望のみが広がるのに対して、本書はわずかな希望を感じさせてくれるという違いこそありますが・・。

作家たちにこのような暗い未来を予感させる現在の状況について、どう考えてどう対応すればいいのか、問われているのは読者なのでしょう。

2010/9