りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

アメリカ素描(司馬遼太郎)

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普遍的で合理的なものが「文明」であり、民族などの特定の集団でのみ通用するが集団外ではむしろ不合理となるものは「文化」である・・との視点から世界を眺めてみる。そのうえで「普遍性があって便利で快適なものを生み出すのが文明であるとすれば、いまの地球上にはアメリカ以外にそういうモノやコト、もしくは思想を生みつづける地域はないのではないか」というのが、司馬さんの前提です。

本書以前にはいっさいアメリカに触れたことも考察したこともなかった司馬さんが、出版社から「アメリカに行ってくれ」と言われて困ってしまった様子から始まり、のべ40日の間、アメリカ西海岸と東海岸を取材した旅行記にすぎないのですが、やはり本質的なものを捉えた作品ではないかと思います。

たとえば著者は、スタインベックの故郷を訪ねてこう述べるのです。「現実という牛肉の大塊にいきなり五指を突きさし、肉塊をむしりとるような握力を持っているのは、建国以来、荒仕事をやり続けてきたこの略奪と建設の文明と無縁ではない」と。

そして今から20年も前に書かれた本書で、すでにこう言っているのです。「アメリカには抜きがたい悪癖がある。他の何一つアメリカ的条件をもたない国々に『アメリカのようになれ』と本気で勧めてまわることである」と。今もって新鮮さを失っていない指摘ですね。

おもしろいのは、ゲイ・カルチャーについてのコメント。アメリカ国内においても、「アメリカ的文明」を窮屈に感じる人々は当然存在するのであり、そういうアウトサイダー的な人々が作る閉鎖的な集団の「文化」ではないか・・だそうです。

さらにおもしろいのは、アメリカ論でありながら、結局は日本論に戻ってくるところ。「日本人は他国を見るとき多分に情緒的になる」とか、「日本に限らず慣習が人間の独創性を拘束している社会は、どの国でも田舎でしょう」などという言葉を聞くとドキッとします。

2009/5