りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

逃げてゆく愛(ベルンハルト・シュリンク)

イメージ 1

かつてナチズムの台頭を許した国民であるとの「原罪意識」に正面から向き合った秀作である朗読者帰郷者の著者による、「愛」をテーマとした短編集です。どうして「愛」は、自分の気持ちに忠実になろうとすればするほど、遠ざかってしまうのか。決してシリアスな物語ばかりではありませんが、どの作品からも「原罪意識」が透けて見えるように思えます。

「もう一人の男」 最愛の妻の死後、見知らぬ男から妻に宛てた手紙が届きます。妻のかつての浮気相手と思われる男に嫉妬心を抱いた夫は、正体を明かさずに男に近づくのですが、彼が得たものはより深い喪失感だけでした・・。

「脱線」 西ベルリンの男は、壁の崩壊前から知り合いだった東ドイツの友人夫婦と良好な関係を保っていたのですが、その友人が秘密警察に、彼の情報を提供していたことを知ってしまいます。

「少女とトカゲ」 遺された一枚の絵を手がかりに、息子が父親の暗い過去をたどります。父親はユダヤ人を救っていたのか。父親は戦争中にその絵をユダヤ人家族から没収したのか。それとも・・。

「甘豌豆」 妻と2人の愛人を巧みに操っていた男に起こる悲喜劇。事故で半身不随になった男を仲良く共有し、自分のビジネスのために「使用する」女たちのしたたかさは、女性から見ると拍手喝采ですが、男性から見ると怖いのでしょうね。

「割礼」 過去の悲劇や宗教問題のために、愛しあいながらも諍いの絶えないドイツ人男性とユダヤ人女性のカップル。「ドイツ人だけどあなたを愛する」と言われて気にする男は割礼を・・。これも男性から見たら怖い話でしょう。

「息子」 政府軍と反乱軍が争う南米の国の選挙監視団に選ばれたドイツ人の男。銃撃戦に巻き込まれて瀕死の重傷を負った男は、自分が息子にとって半分の父親でしかなかったと思うのです。

「ガソリンスタンドの女」 ずっと夢に登場していた女性と旅先で出会ったら? 長年連れ添った妻と愛を確かめ合った直後でも、あなたはロマンのために全てを捨てられますか? これは、女性の側から見て怖い話です。

2010/4読了