りぼんの読書ノート

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乾隆帝の幻玉(劉一達)

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舞台は、中華民国が成立した後の北京。袁世凱帝政があえなく失敗した後といいますから北京には諸外国も駐留しており、各地では軍閥が割拠し、中国は独立国家の体を成していない頃のことでしょうが、戦火は収まっていたので庶民の生活は比較的安定していたのでしょうか。本書は、清国皇帝・乾隆帝が愛していたという「玉碗」を巡って、北京の骨董商や、職人や、茶館の主人や、宦官や、貴族や、水売りや、車引きらが繰り広げるドラマです。

清朝崩壊のどさくさに紛れて引退した宦官の手に渡った「玉碗」は、それが国宝級の逸品であるとの真価を知らない養子によって持ち出され、二束三文の値段で骨董商の宗の手に渡ります。それを欲しくてならない元貴族の金は、宗の隣家の玉職人である杜を罠にかけるのですが、さらに「玉碗」が海外に売り飛ばされることになって・・。

TVの「鑑定団」で中国土産の骨董品が偽物だったとのケースがよくありますが、プロ中のプロが揃っている北京の目利きたちの間でも、骨董品の真贋を見抜くのは至難の業なのですから、素人が騙されるのは当然ですね。しかもあまりにも専門が細分家されていて、分類方法すら覚えられないほど・・^^;

北京生まれの著者ですが、当時の北京の様子は、長年かけて古老たちから取材したということです。戦乱の時代でも日常生活を楽しみ、自分の名誉のためには命も賭ける意地っ張りな「老北京(北京っ子)」の生活が、本書の中に息づいています。

彼らを動かすのは、必ずしも欲得だけではありません。不遇な人生をおくった末に結ばれた家琦と巧雲のカップルに応援する「老北京」たちの心意気などは、やはり政都であった「江戸っ子」と通じるものがあるようにも思えます。本書は、本来なら書き言葉にはならない「北京の下町言葉」で書かれているそうです。理解も及ばない世界ですが、そんな味わいを楽しめないことも残念に思えます。

2010/4