りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

銀のみち一条(玉岡かおる)

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時は明治。舞台は播磨の奥で日本の近代産業を支えた生野銀山。神戸と兵庫の女性を描いてきた著者には珍しく、本書の中心となる人物は、鉱山一の稼ぎをたたき出す逞しい青年坑夫・雷太です。とはいえ、著者が描きたかったのは、一介の杭夫でありながら鉱山の近代化に奔走する雷太を巡る、3人の女性の運命なのでしょう。

新しい明治の女性を志して文学の道を進もうとする、地元の名士である医師の娘・咲耶子。母を早くに失った雷太と兄妹のように育てられ、町いちばんの美貌の芸妓となった芳野。やはり杭夫仲間の娘で、雷太をまっすぐに慕い続けている、咲耶子の女中の志真。3人それぞれがそれぞれのやり方で、志を持つ雷太を想うのです。そこに絡むのが、東京で咲耶子と恋愛に陥った文学青年や、咲耶子を妻に望む鉱山技師や、借金を肩代わりして芳野を落籍せようとする地元の権力者らであり、当事者の自由になることばかりではないのが、この時代です。

もちろん全員が雷太への想いを結実させるわけにはいきませんし、雷太にも災厄が襲い掛かってくるのですが、女性たちもそれぞれ、自分の生きる道を見つけていきます。「近代化」は、男だけのものではなかったのですね。

著者は、生野の町の雑貨屋で見つけた、見事な細工が施された一本の象牙のかんざしから、この物語の着想を得たそうです。この物語の真の主人公は、雷太が落盤事故にあった時に姿を見たという山の守り神「銀山女御」なのかもしれません。

東京での咲耶子のエピソードが、田山花袋の『蒲団』をモデルにしているのですが、自分のことをあんなふうに書かれた女性は、旧態依然たる地元で傷ついたんだろうなぁ。この本を読むまでは、そこまで思いが至りませんでしたが・・。

2010/2