りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

エンディミオンの覚醒(ダン・シモンズ)

イメージ 1

ハイペリオンハイペリオンの没落エンディミオンと続いた長い長い4部作もついに完結しました。全ての主要な謎が解かれ、人類は新たな一歩を踏み出すに至ります。

前巻で「時間の墓標」から現れた少女アイネイアーと、彼女を守り抜いて異空間に存在するオールドアースまでたどり着いたエンディミオンは、自らの使命を果たすべく、パクスの支配する宇宙へと再び飛び出していきます。

一方で人類の敵との本性を明らかにしつつあるAI連合体コアと同盟するパクスは、新教皇ウルバヌス16世のもとで、アウスター討伐の十字軍遠征を開始するとともに、「救世主」とされるアイネイアーを捕えるべく、ネメスら教皇親衛隊を送り出します。果たして、2人の運命は? そして人類の運命は?

聖十字架による不死性を武器に宇宙支配を強化するキリスト教に対するアンチテーゼは、おのずと多様性を有する連合体との形をとり、既成概念で言うなら、仏教、イスラム教、ユダヤ教ヒンズー教、原始アミニズムなどの多様な宗教、多様な価値観で現わされます。ダライ・ラマだって、一休や良寛だって、フランク・ロイド・ライトだって登場しちゃう。

従ってアイネイアーの呼びかけはシンプルです。「選べ、もういちど」。対立か共存か、従属か自立か、画一性か多様性か、コピーによる不死か一度きりの人生か、あらゆる生命の声で満たされている超宇宙空間「虚空界」を略奪するのか、共感するのか。

ハイペリオン』の7人の巡礼のうち4人が集結し、既に存在しないメンバーであってもアイネイアーやレイチェルなど次の世代の者が集うエンディングは、大団円に相応しい。「虚空界」も、「獅子と虎と熊」も、「観察者」も、「シュレディンガーのキャットボックス」も、「救世主の血」も、「シュライクの謎」も、「ジョン・キーツのサイバネックスの理由」も、「オールドアースの運命」も、全てが綺麗に纏まりました。

カッサード大佐の運命など、「詩篇」を著わした「マーティンおじさんの勘違い」として片付けられた部分も少々ありましたが、これだけの大構想ですから、許容範囲ですよね。最終巻を恋愛小説のノリで纏めたという点も大構想のうちでしょう。なんせ、テーマは「愛と共感の物理学」なんですから。そうか。このシリーズには、宗教と科学を和解させる目的もあったのですね。

2010/2