りぼんの読書ノート

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女の勲章(山崎豊子)

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日本人の服装がほぼ完全に洋服に変わったのは、戦後になってからだそうです。日本が敗戦の傷跡から急速に復興しつつある時代、衣服革命も静かに進行していました。洋裁教室ブームの到来です。そういえば私の母も洋裁が得意だったなぁ・・。

船場の良家の譲はんであった式子は、戦災で両親を失ったものの、生家を売却した資金で洋裁学校を始めます。デザイナーとしての能力に恵まれ、当時ヨーロッパの物真似でしかなかった服飾業界に新風を持ち込んだ式子は、時代の寵児となって洋裁学校を次々と開設。彼女をモデルにしたかのような映画もできるほど。

ところが、優秀なデザイナーであってもお嬢さん育ちの式子に、学校を経営する才覚などあろうはずもありません。事業拡大に積極的で実務を全てこなしたのは、商社を退職して、洋裁学校のフランス語講師として勤め始めながら、いつの間にか理事長のような役割を果たすようになっていた年下の男性、銀四郎。

ところが、この銀四郎がワルなんです。式子とも、式子の弟子の若い女性たちとも肉体関係を持ち、彼女らを思うように操りながら拡張した事業を支配するかのような動きに出ます。しかも、弟子たちにもそれぞれの思惑と打算がありそうなんです。式子は、自分自身と事業を取り戻せるのでしょうか。果たして「女の勲章」とは虚栄にすぎないものなのでしょうか。

本書か書かれたのは1960年ですから、もう半世紀も前のこと。時代背景も戦後それほど経っていず、パリに行くにも南回りで数日も要した頃の物語ですが、女性の自立や社会進出の難しさは、当時と今と比較して、変わっているのか、いないのか。今の時代でも、異性間の好意を公私混同してしまうようなケースは多そうですし・・。そんなことを考えさせてくれた本です。

2010/2