りぼんの読書ノート

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カティンの森(アンジェイ・ムラルチク)

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3人の「アンジェイ」によって成立した作品だそうです。本書を映画原作として書き表した、著者の「アンジェイ・ムラルチク」。映画化するために著者ともに企画を立てた「アンジェイ・ワイダ監督」。そして、この物語の直接のモデルとなった「アンジェイ大佐」。(名字を忘れました^^;)

1939年9月、ナチス・ドイツソ連の両方に侵攻されたポーランドは敗北。ソ連の捕虜となったポーランド軍の上級将校や知識人が、スターリンの指示で大量虐殺されて秘密裏に埋められていたというのが、「カティンの森」事件です。しかし、その事実は、戦争中はソ連との同盟維持を重視する連合国側によって、戦後はソ連の衛星国となったポーランド政府によって、長い間伏せられていました。

本書は事件を直接描いたものではなく、事件を知らされないまま、戦争終結後も戻ってこない少佐を空しく待ち続ける、母と妻と娘の3人の女性の物語。真実を知らされずに待ち続けることが、いかに残酷で辛いものなのか。しかも真実を追究しようとする行為が、また新たな犠牲者を生むのですから、「隠蔽の罪」は「虐殺の罪」と匹敵するほどに酷いものなのです。

帰ってこない夫を待ち続けるアンナに求愛する、夫の元部下の出現。ヴェロニカの前に現れた、元・反ソ連レジスタンスの青年。この2人の男性もまた「消え去った」時に、母娘は新たな思いを共有します。生涯消えることのない悲しい思いを・・

後に考古学者となったヴェロニカが、秦の始皇帝の兵馬踊のスライドを用いて「考古学者の使命は歴史に埋もれてしまった過去を明るみに出すこと」との講義を行い、「カティン」へと向かう列車に乗り込む冒頭の場面が印象的でした。

2010/1