りぼんの読書ノート

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悲しみを聴く石(アティーク・ラヒーミー)

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場所は「アフガニスタンのどこか。またはそれ以外のどこか」にある、砲撃音や、銃声や、イスラムの祈りの声が聞こえてくる部屋。登場人物は、戦場から植物状態となって戻ってきた夫と、看病する妻。セリフは、ほとんど妻の独白です。

彼女は、物言わず横たわる夫に向かって語り続けます。まるで夫が、イスラムの伝説にある「悲しみを聴く石」であるかのように。「サンガ・サブール」と呼ばれるその石は、人々の悲しみや嘆きを聞き続け、やがて限界点に達すると爆発する。それが「この世の終わり」だそうです。

妻の独白は、男の欲望と暴力に支配された運命への嘆きにとどまりません。やがてそれが、夫に隠し続けていた罪深い秘密を明かすに至って、限界点が訪れるのです。そして、悲劇的な結末が・・。

著者はこの本を、夫に殺害されたイスラムの女性作家に捧げています。このような深い悲しみに対しては、付け加えるべき言葉もありません。

2010/1読了