りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

昼が夜に負うもの(ヤスミナ・カドラ)

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アフガニスタンが舞台のカブールの燕たちと、パレスチナが舞台のテロルの著者の新作は、自らの故郷アルジェリアの物語でした。しかもテーマは生涯をかけた大恋愛。といっても、その背景には植民地時代の差別問題や、第二次大戦からアルジェリア独立戦争にかけての激動の日々があって、恋愛だって時代と無縁ではいられません。

主人公は、青い目で、天使のような顔をしたアラブ系の少年ユネス。物語は、誇り高いイスラムの男である父親が、祖先から受け継いだ農地を騙し取られて都会のスラムへと移り住むところから始まります。再起を図るものの転落の一途をたどり、やがて気力も失っていく父親の姿を見て、少年の心は痛みます。

息子の行く末を案じた両親は、ついにユネスを、薬剤師として成功してフランス系の妻を娶っていた伯父に託します。ユネスの名はフランス風にジョナスと変わり、西欧流の教育を受けて西欧系の友人たちとともに成長していく過程で、エミリーという少女と知り合います。互いに惹かれあう2人でしたが、ジョナスにはエミリーと付き合えない理由がありました・・。

ユネス/ジョナスは、イスラム世界と西欧世界の双方に引き裂かれた存在として成長します。片方には零落して去っていった父親の誇り高くも悲しい眼差しの記憶があり、もう片方にはエミリーや友人たちの存在があるのです。やがて戦争がはじまり、彼の愛する2つの世界が敵味方に別れて殺し合いを始めたときには、彼はただ逡巡するしかありません。どちらの陣営からみても中途半端な存在であり続けるしかない者の悲しみや苦しみが、恋愛にも影響を与えてしまうのですが、女性の立場からはこれはキツイな。

エピローグ的な最終章で、フランスを訪問したユネスが、アルジェリアを去った旧友たちと再開する場面からは、「ほろ苦い許し」が感じられます。数世代をかけて地位や財産を築いた場所から去らざるを得なかった植民者の気持ちと、植民者を追い出して独立は勝ち得たものの、理想からは程遠い国家しか築けていない祖国に対する複雑な思いが交錯する一瞬です。

2010/1