りぼんの読書ノート

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山田風太郎明治小説全集12 明治バベルの塔

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明治も後半に入っていきます。本書で描かれているのは明治28年から34年ころでしょうか。表題作は、万朝報の売り上げを伸ばすために、社主・黒岩涙香が仕掛けたアナグラムのクイズを巡る顛末記。文章を崩して暗号化した手がかりをたどれば、賞金を埋めてある場所にたどり着けるという企画は評判を呼んで、新聞の売れ行きにも貢献したのですが、あまりにも難しすぎて、たった1回しか正解者が出なかったとのこと。しかも、若き幸徳秋水が仕掛けた「政商批判のアナグラム」を巡って犠牲者が出るに至って、この企画も終わってしまいます。

その幸徳秋水の人物像を多面的に描き出そうとした「四分割秋水伝」は傑作です。中江兆民に師事し、田中正造足尾銅山鉱毒事件について明治天皇に直訴した際の直訴状を書き、日露戦争に最期まで反対して堺利彦とともに「平民新聞」を発行し、「共産党宣言」を翻訳し、ゼネラル・ストライキによる「直接行動論」を提唱して社会革命党を結成した初期の大社会主義者の弱点は「下半身」、つまり女性関係にあったようです。

それはついに管野須賀子との大恋愛に発展し、明治天皇爆殺を企んだ彼女との関係から「大逆事件」での冤罪による刑死へと至る道だったのですが、須賀子を奪った相手が、後の荒畑寒村というのは、あまりにも奇縁。

他には、日清戦争の講和で来日した李鴻章を狙撃した小山六之助の刑務所暮らしを『坊ちゃん』の文体で綴った「牢屋の坊ちゃん」。牛鍋チェーンの大立者・木村荘平の破天荒な商売と人生を描いた「いろは大王の火葬場」。明治の巨魁・星享を刺殺した最期の武士・伊庭想太郎の暗い想念を描いた「明治暗黒星」が収められています。

2009/12