りぼんの読書ノート

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星間商事株式会社社史編纂室(三浦しをん)

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川田幸代。29歳。中堅商社である星間(ほしま)商事社史編纂室勤務。彼氏(のような存在)あり。彼女の秘密は「腐女子」であること。高校時代からのサークル仲間3人で「やおい系」同人誌を発行し続けているんです。社史編纂室なんて部署に回されたのも、サークルのほうに時間を割きたかったから。想像通り、課長以下だれもなにもやる気のない、ヒマ~な部署です。

そんな彼女に転機が訪れます。普通の結婚を決めたサークル仲間が、サークルをやめると言い出したこと。定年間近の本間課長が彼女の趣味を知って、文学青年だった過去を思い出し、社史編纂室メンバーで同人誌を作ろうと言い出したこと。社史の取材中、OBたちが隠しまわる「裏歴史」があると気付いてしまい、それを嗅ぎまわっていたら、脅迫状が届いたこと。彼女らは脅迫を逆手にとって、「裏社史」を「同人誌」として製作すると決めるのですが、果たしてどうなることやら?

「裏」にあったのは、戦後まもなくのこと。架空の東南アジアの国への戦後賠償貿易を有利に進めるために、大統領に女性をアレンジして・・という、まるで深田祐介の『神鷲(ガルーダ)商人』のような、というか、デヴィ夫人の実話のような物語があったことを隠そうとしていたんです。

そこまではオリジナリティありませんが、愉快なのは、大統領夫人に「創作文学」を捧げることが入札の代わりになっていたということ。幸代は、「裏社史」に信憑性を持たせるために、当時の「創作文学」の再現を試みるのですが、南洋の海賊物語と「やおい小説」が渾然一体となって・・。

三浦さんの小説からは「書くことの楽しさ」が伝わってきますね。同世代の桜庭さんの作品が「書くことへの執念」を感じさせるのと、好対照です。

2009/11