10年前に東京の文教地区の町で起きた「お受験殺人」をモチーフに書かれた小説。たまたま出会ったごく普通の母親たちが、育児を通して次第に心を許しあい、親交を深めていくものの、子どもの小学校受験を控えて、その関係が変容していく。
セレブな生活にあこがれて、無理をしてマンションを買った「繭子」。ボランティアグループに入り独自のポリシーを持っている「瞳」。人への依頼心が強い「蓉子」。経済的にも家庭にも恵まれ、明るく屈託のない「千花」。完璧主義なマダム生活を送るものの不倫もしている「かおり」。
全く違う環境の人達が出会って仲良くなっていく冒頭のシーン自体も不気味ですが、子どもの小学校受験を控えて関係が変容していくに連れて、それぞれが嫉妬や不安や疑心暗鬼に囚われて、追い詰められ、壊れていく過程はもはやホラーです。
「あの人たちと離れればいい」
「なぜ私を置いてゆくの?」
「そうだ、終わらせなきゃ」
「この子さえいなければ・・」
「なぜ私を置いてゆくの?」
「そうだ、終わらせなきゃ」
「この子さえいなければ・・」
クライマックスシーンには固有名詞は登場せず、誰が誰の子を襲おうとしたのかは判然としないのですが、それが誰であってもおかしくない。5人のうちの誰かに共感を抱いていたら、それは自分かもしれないとまで思わせる。
『対岸の彼女』では肯定的に描かれていた「友達欲しい症候群」のダークサイドを描いた本なのでしょう。
2009/8