りぼんの読書ノート

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奴の小万と呼ばれた女(松井今朝子)

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「奴の小万」の名で芝居の題材にもなり、大坂中の評判を呼んだ型破りな女の半生記です。大坂屈指の商家・木津屋の娘に生まれたお雪は、色白な美少女ながら180cm近い大女で、虚弱で大人しい兄とは対照的に奔放に育ち、時代からどんどんはみ出していってしまいます。

生年不詳ながら1720年頃の生まれといいますから、成人した頃は「享保の改革」の時代。女は結婚して子を産むのが天命と定める「まっとうな世間」と対立して、格闘技の腕を磨き、女だてらにスリを退治したり、愛しい男を救うために白無垢姿で大立ち回りを演じたりして、「男装の麗人」的な人気を得るのですが、やはり「まっとうな世間」は厳しく立ちはだかる。

彼女の目に映る「まっとうな世間」とは、「嘘でも人並みでありたいと願うひとりひとりが作り出した世間様という名の怪物」であり、「何千何万ものからだを持ちながら顔は一つしかない化け物」のようなもの。それに加えて、「女は家長となれない」とする保守的な幕府の定めが彼女を追い込んでいく。やがて未婚のままに父なし子を産んだお雪は、家を守るために、おとなしい番頭と形だけの偽装結婚をあげるよう迫られるのですが・・。

お雪が愛した男たちが「だめんず」ばかりなのは、運命だったのか。必然だったのか。後に「三好正慶尼」として剃髪するお雪は、「何か事を為したい」という「男の身の因果」をいとおしむ境地にまで達します。こんな破天荒な女性が実在の人物だとは凄いものです。歌舞伎界に長く身を置いた松井さんだからこそ、発掘できたのでしょうね。

2009/8