りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

羊をめぐる冒険(村上春樹)

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連れ合いが図書館から借りて読んでいた本を横取りして、再読してしまいました。風の歌を聴け1973年のピンボールに続く、初期三部作の締めくくりと言われていますが、前2作との関係は登場人物の造形と全編を通じての雰囲気であり、この作品から新しい世界に入っていったと思えるのですが、どうでしょう。

旧友の鼠から届いた北海道の消印がある葉書と、なんの変哲もない羊がいる風景写真。凄い耳を持つキキとともに鼠を探す旅に出た主人公は、ドルフィンホテルに宿泊して羊博士と出会い、世間から隔絶した廃農場で羊男と出会います。ここで問題となっている「羊なるもの」とはいったい何なのか。ストーリー的にはかなり明解な説明がなされていますので、わかったような気になってしまうのですが、あらためて読むと、これはこれで悩ましい。

中国大陸で生まれ、かつてはジンギスカンを操ったとも推定される「羊なるもの」が羊博士を経由して日本にたどり着き、長年宿主としていた「先生」から離れるに至って鼠に入り込む。本書では、鼠と主人公は「羊なるもの」を葬り去ろうとするのですが、それはいったい、たとえば1Q84の「リトルブラザー」とはどう違うのか。

もっともこの作品について言えば、そんなことは考えなくても良いのかもしれません。本書の主役は「青春の終わり」の寂寥感であり、「青春時代に別れを告げる冒険」を意味あるものとして留めさせるものも、その寂寥感自体のようにも思えるのです。

村上春樹さんの全長編を読み返したくなってしまいました。どうしよう?

2009/8再読