りぼんの読書ノート

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ミレニアム3 眠れる女と狂卓の騎士(スティーグ・ラーソン)

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実の父親でありながら宿敵となったザランデルと対決したリスベットは、相手に重傷を負わせたものの、自らも傷ついて瀕死の状態に陥ってしまいますが、現場に駆けつけたミカエルの手配で、一命をとりとめます。

これに衝撃を受けたのは、ソ連からの亡命スパイであったザラチェンコを匿ってきた公安警察内部に潜む闇の組織である、特別分析班。歴代首相にもその存在を知らせずにほとんど憲法違反の活動をしてきたこの組織は、自らの存在を守るために極秘の活動を開始するのですが、その中にはリスベットの口を封じる卑劣な方策も含まれていました。ミカエルらは、組織犯罪を暴き、病床から動くことのできないリスベットを救出するため「狂卓の騎士」と名づけたグループでの活動を開始するのですが・・。

このシリーズは、ミステリ仕立てにした第1部、社会派警察小説の要素を含む第2部、そして第3部が謀略・法廷サスペンスと、エンターテインメントとしての各要素を備えながら、そのどれもが極めて高い水準を保っているだけではありません。

このシリーズとよく比較されるスウェーデン発の『マルティン・ベック』シリーズは、警察小説という体裁をとりつつも、巻ごとにミステリのさまざまな手法を取り込んでいて、全編を通じて読むと「アメリカ的社会の不可避的な到来」に警鐘を鳴らしていたのですが、このシリーズは、より現代的で普遍的なテーマに挑んでいるのです。

一貫した著者の主張は、「弱者に対する強者の横暴への怒り」ですね。「この事件の核心はスパイとか国の秘密組織とかじゃなくて、よくある女性への暴力と、それを可能にする男どもなんだ」とのミカエルの言葉に全てが凝縮されているようです。そして、全ての矛盾が集約した場所で育ちながら、それに抵抗することで形作られた「リスベット」という、「女を憎む男たち」を憎む強烈で矛盾したキャラクターの造形が魅力的なのです。

過去の鎖を断ち切ったリスベットの今後(たとえば妹との関係?)が描かれるはずの第4部が、著者の急死で中断されてしまったことが残念でなりません。

2009/8