りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2009/8 ミレニアム(スティーグ・ラーソン)

今月の1位は、スウェーデン発の傑作ミステリ・シリーズの『ミレニアム』。何より、全編を貫いて流れる著者の主張が素晴らしい。出版前の著者の急死によって、続編を期待できないことが残念でなりません。

佐藤亜紀さんの『激しく、速やかな死』は、「難解」という方も多いようですが、決してそんなことはありません。かなり楽しんで書いているのではないでしょうか。
1.ミレニアム(スティーグ・ラーソン
第1部はミステリ仕立て、第2部は社会派警察小説、第3部が謀略・法廷サスペンスと、エンターテインメントとしての各要素を備えながら、どれもが極めて高い水準を保っているだけではなく、「弱者に対する強者の横暴への怒り」という著者の主張を、現代的な視点で描き出したスウェーデン発の傑作ミステリ。やはり同国初の世界的な児童小説のカツレとピッピの「その後」とでもいうような、主人公たちの人物造形も魅力的です。

2.激しく、速やかな死(佐藤亜紀)
帯には「歴史の波涛に消えた思考の煌きを華麗な筆で描き出した」とありますが、むしろ「どうしてこの人物のこの思考をとりあげたのか」というテーマの選択に宗教や狂信者への不信や、嫌味で無粋な男に対する著者の皮肉を感じます。それらのテーマを、思わずクスッと笑ってしまうような作品に仕上げたところは、さすが佐藤さんですね。相変わらず、友人には持ちたくないタイプの方ですが・・^^;

3.f植物園の巣穴(梨木香歩)
『家守奇譚』や『村田エフェンディ滞土録』と同じ頃の物語。f植物園で働く男が木のうろに落ちたことから、異界と交わっていきます。異端と混沌の世界で男の心は揺れ動き、苦しみや悲しみや愛おしさといったむき出しの感情に翻弄され、その感情によって過去を清算していくんですね。彼が失い、手に入れたものを知るときに読者が得るものは、「生命の連鎖」に対する深い感動です。



2009/8/30