りぼんの読書ノート

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バスク、真夏の死(トレヴェニアン)

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第一次大戦直前の、フランス・バスク地方にある小さな温泉町サリーで働き始めた駆け出しの青年医師ジャン・マルクは、カーチャという魅力ある女性と恋に落ちる。カーチャには皮肉屋で悪魔的魅力を放つ青年である双子の弟ポールがいるのだが、彼はジャン・マルクを嫌い、執拗にカーチャとの交際をやめさせようとする。なぜポールにそんな権限があるのか。そもそも、上流階級であるはずのカーチャの一家がパリを離れてこんな片田舎に移り住んでいるのか。全てが訝しく思える中、夏の終わりを飾るバスクの村祭りの翌日、悲劇は起きる・・。

この物語は、事件から四半世紀が過ぎて、今は既に中年を迎えたジャン・マルクが思い出の地を久々に再訪して、過去の悲劇を回想するという形式で綴られています。「衝撃のクライマックスへの階段を一歩一歩静かに不気味に上ってゆく」かのような叙述を可能にするための設定なのでしょう。

恋愛サスペンスでありながら、それを超えた作品に仕上がっているのは、第一次大戦直前という時代と、真夏のバスクという舞台の設定だけではありません。この問題に対する著者の姿勢が素晴らしいのです。「この問題」とは何なのか。それが気になる方は、ぜひ本書をお読みください。そして最後の一行で衝撃を受けてください。

2009/9