りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

ある秘密(フィリップ・グランベール)

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一人っ子で病弱な主人公の少年は、想像上の兄を創って遊んでいたのですが、ある日屋根裏部屋で、本当に兄がいたという形跡を見つけ出します。少年は「家族の秘密」を探り出すのですが、それは悲しい秘密でした・・。主人公の姓はフランス風の「Grinbert」ですが、父が改名する前は「Grimberg」。明らかにユダヤ系の名前。これは著者の自伝的な小説なのです。

父のマクシムはアンナという女性と結婚していて、シモンという息子を授かっていました。母のタニヤは、アンナの弟であるロベールという男性と結婚していたのです。2組の夫婦に起こったことは、あまりにも日常的な不幸である「不倫」だったのですが、それが占領下のフランスにナチスが擁立したヴィシー政権下、日々激しくなっていくユダヤ人迫害のさなかの出来事となると、ただの不幸ではすみません。

不幸は増幅され、両親のもとの配偶者たちであったアンナもロベールも、主人公の兄であったはずのシモンも、もはや少年の周囲にはいないという事実。彼らを「いなかったこと」にして生活しているという両親の秘密に圧倒されながらも、両親を許すに至る息子。

戦争とホロコーストという「歴史的な物語」が、家族という「個人的な物語」へと収斂していく過程が、感情を押し殺した淡々とした文章によって綴られていきます。秀作です。

2009/8