りぼんの読書ノート

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オリバー・ツイスト(チャールズ・ディケンズ)

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言わずと知れた文豪ディケンズの名作です。著者には、『ディビッド・コパフィールド』や『大いなる遺産』など、「孤児」を主人公とした作品が多いのですが、19世紀イングランド下層階級の厳しい世相を描くには、世間の荒波に直接にさらされる「孤児」というのは、格好の題材だったのでしょうね。

物語はシンプルです。行き倒れの母親から生み落とされ、救貧院で育てられた孤児のオリバーは、虐待に耐え切れずに脱走してロンドンに向かうものの、窃盗団の一味に加えられてしまいます。逆境の中でも悪に染まることがなかったオリバーが、親切な人々に救われ、やがて出生の秘密が明らかになって・・とのストーリーなのですが、本書の魅力は、当時の生活や登場人物の心情が生き生きと描写されていること。

とりわけ「悪人」として登場して悲惨な末路を迎える、窃盗団の首領フェイギンや、残虐な悪漢・ビル・サイクスらのキャラは際立っていますし、著者も丁寧に描きこんでいるように思えます。また、孤児たちを虐待するバンブル教区吏や、養育院のコーニー婦長など「小市民的悪役」の存在も物語にスパイスを利かせているんですね。

一方で「善人」サイドのメイリー婦人と姪のローズ、紳士のブラウンローやグリムウィグが月並みで退屈な人物に思えてしまうのは、うがちすぎた読み方でしょうか。ドストエフスキーが『アンナ・カレーニナ』で語った有名な言葉を思い出しました。「幸福な家庭はどれも似たものだが、 不幸な家庭はいずれもそれぞれに不幸なものである」

ところで本書には、下層階級への待遇を劣悪なものとした、イギリスの新救貧法に対する批判が込められているとのこと。オリバーが救貧院で虐待された背景となった悪法です。本書の真の悪役は「社会制度そのもの」であったのかもしれません。

2011/4