りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

栄光なき凱旋(真保裕一)

イメージ 1

太平洋戦争によって2つの祖国を引き裂かれ、白人との露骨な差別を受けながらも、日本との戦争に赴いていった日系移民2世たちの物語。優秀な成績で大学を卒業し、就職も婚約も決まって順風満帆の未来に踏み出そうとしているヘンリーと、自分を棄てた母への恨みから日系人社会に背を向けて暮らし、恋人を幼馴染みのヘンリーに奪われたジローは、ロスのリトル・トーキョー出身。一方、白人の恋人との交際を両親に打ち明けるタイミングを計っていたマットは、日系移民が人口の40%を占めるハワイ生まれのハワイ育ち。

彼らの未来は、真珠湾攻撃によって奪われてしまいます。日系人の強制収用に抗議して法廷に立ったヘンリーも、自棄になって殺人を犯してしまったジローも、間近で多くの死を見たマットも、やがてそれぞれの理由からアメリカ軍の一員として戦場に立つのですが、そこにあったのは、日系人に対する敵意や蔑視であり、厳しい戦争の現実だったのです。

ジローとマットは日本語を操る語学兵として南方戦線に送られ、日本軍と直接戦い、欧州戦線に投入された日系人連隊の一員となったヘンリーは、激しい戦闘の中で非白人部隊が使い捨てにされる現実に何度も死を意識せざるをえません。そして、戦争を生き延びて帰還した彼らを待っていた現実とは・・。

太平洋戦争中の日系人を描いた物語としては、NHKドラマにもなった山崎豊子の『二つの祖国』が有名ですが、本書の登場人物のほうが純粋なのかもしれません。天羽賢治の心が最後までアメリカと日本の間を揺れ動いたのに対し、こちらでは日系人の未来を奪った日本に対する怒りがストレートに表現されているようです。その分、戦場を描写する場面の苛烈さと悲惨さが増しているともいえます。それぞれの本が書かれた時代背景や、著者の姿勢が反映されているのでしょう。

2011/4