りぼんの読書ノート

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ユダの季節(佐伯泰英)

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スペイン内戦と今に残された「内戦の後遺症」を描く日本人作家というと逢坂剛であり、彼の作品には日本人のフラメンコ・ギタリストが登場するのですが、こちらの作品には日本人の闘牛写真家が登場します。

1973年秋。独裁者フランコ政権末期のスペイン。バスク独立を目指す過激派組織によって、サラゴサ郊外の米軍基地から大量の兵器が強奪されます。時を同じくして、スペインに在住しているカメラマン端上恭助の妻子が殺害されるのですが、その2つの事件の接点に、日本赤軍崩れの留学生がいることが明らかになってきます。

1973年はスペインにとっての転機の年でした。2年後にフランコが死ぬと、陸軍の支持が強くフランコから帝王学の教育を受けていたブルボン王家のファン・カルロス1世が後継に指名されます。即位するやいなや、独裁制を廃し、議会制民主主義に基づく立憲君主制へと大きく舵を切って「スペインの奇跡」を起こす新国王。しかしフランコが独裁政治の実権を継がせようとしていた腹心のルイス・ブランコが、この年にETAのテロで死んでいなかったら、いったいどうなっていたか・・。

この小説は「フランコ以降」を巡る暗闘に巻き込まれた日本人たちを描いているのですが、この時、日本の皇太子と皇太子妃もスペインを訪問されています。スペインと日本の王室が親交を深めるための闘牛見物の場を舞台にして、両国へのテロを同時に仕掛けようとした側と、防ごうとする側の双方に日本人が絡んでいた・・という歴史サスペンスでした。

2009/8