物語の縦糸は、感染性ウィルスと情報の組み合わせによって、マインド・コントロールしようというテロの脅威(実は謀大国の陰謀)に対する諜報戦の物語なのですが、横糸でありながら、より強い主題となっているのは、アルツハイマー治療から生還した大詩人がネット社会に適合していく過程を通じての、近未来社会そのものの描写です。そして最後に浮かび上がってくるのは、人知を超えた存在の萌芽の可能性・・。
EU諜報局が雇った正体不明のハッカー「ウサギ」が、陰謀の根拠地とみなされるサンディエゴのバイオ研究所に入り込むために狙いをつけたのは、元大詩人のロバート。実はロバートの息子の妻アリスが、ネット海兵隊で研究所の防御を担当していたのです。「ウサギとアリス」ときたら、ルイス・キャロルを思い起こしますよね。実際にウサギの掘った穴にもぐっていったのは、アリスの娘のミリでしたけど。
世界中の図書館の本をデジタル化するために裁断化する、という暴挙が目論まれるとか、サークル間抗争がほとんど大戦争、もしくはスペクタクル映画のようになっているとか(大メディアである「ボリウッド連合」とか「スピルバーグ/ローリング」なんかまでバーチャル参加しちゃうんですよ^^)、もろもろのデテイルが楽しい本でした。想像力を限界まで試されてしまった感もありましたが・・。
2009/7