りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

レインボーズ・エンド(ヴァーナー・ヴィンジ)

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社会的インフラとしてユビキタス・ネットワークが整備され、衣服のように装着できて思念で操作できるウェアラブル・コンピュータが常識となっている近未来社会を舞台としたSF小説です。

物語の縦糸は、感染性ウィルスと情報の組み合わせによって、マインド・コントロールしようというテロの脅威(実は謀大国の陰謀)に対する諜報戦の物語なのですが、横糸でありながら、より強い主題となっているのは、アルツハイマー治療から生還した大詩人がネット社会に適合していく過程を通じての、近未来社会そのものの描写です。そして最後に浮かび上がってくるのは、人知を超えた存在の萌芽の可能性・・。

とくると、ギブソンの『ニューロマンサー』の焼き直しと思われる方も多いでしょうが、似たような主題であっても、1980年代に描かれた「未来社会」と較べると、遥かに先に進んでいます。当然ですけどね。

EU諜報局が雇った正体不明のハッカー「ウサギ」が、陰謀の根拠地とみなされるサンディエゴのバイオ研究所に入り込むために狙いをつけたのは、元大詩人のロバート。実はロバートの息子の妻アリスが、ネット海兵隊で研究所の防御を担当していたのです。「ウサギとアリス」ときたら、ルイス・キャロルを思い起こしますよね。実際にウサギの掘った穴にもぐっていったのは、アリスの娘のミリでしたけど。

世界中の図書館の本をデジタル化するために裁断化する、という暴挙が目論まれるとか、サークル間抗争がほとんど大戦争、もしくはスペクタクル映画のようになっているとか(大メディアである「ボリウッド連合」とか「スピルバーグ/ローリング」なんかまでバーチャル参加しちゃうんですよ^^)、もろもろのデテイルが楽しい本でした。想像力を限界まで試されてしまった感もありましたが・・。

2009/7