りぼんの読書ノート

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ジャック・ロンドン放浪記(ジャック・ロンドン)

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力強い短編集火を熾すで紹介されていたジャック・ロンドンの生涯には驚きました。後年、作家として文名を上げる前には、児童労働者であり、牡蠣密漁者であり、遠洋航海船の船員であり、失業者であり、独学の社会主義者でもあったというのですから。

この本は、31歳になった著者が、10代の頃の「ホーボー」と呼ばれる放浪者だった時代の生活を綴ったものです。「ホーボー」というのは単なる放浪者ではなく、大陸横断鉄道を無賃で乗り継いで渡り歩くツワモノを指して言う言葉だったとのこと。

もちろん犯罪です。警察に追われて拘置されるだけでなく、列車の車掌や制動手に見つかると列車から叩き落され、生命の危険と隣り合った生活。うまくいっても、のうのうと客車に座れるはずもありません。列車を繋ぐ連結器の周りとか、列車の上とか、車輪の横のスペースとか、要は「屋外」です。冬のロッキーやシェラネバダ山脈を越えると仲間内から尊敬されたというほどに過酷なもの。

収入もないため、着いた町で物乞いをしたり、口先三寸で哀れみをかって施しを受けたり、犯罪に手を染めることもあったようです。無賃乗車のテクニックや、食糧確保の方法、警察から逃げる方法、刑務所で生き延びる方法、放浪者仲間でカモにされない方法などが綴られるのですが、行間に浮かび上がってくるのは、「無産者の心意気」であり、自分こそが「アメリカの自由なフロンティア・スピリットの体現者だという誇り」です。

著者は、過ぎ去った若い日々を懐かしんでいるだけではありません。『私はいま新しい頁を読むのに忙しい。機関車が勾配にさしかかって汽笛を鳴らしたらこの新しい頁も終わり、次の頁が始まる。人生の本はこうして読み進められていく。ひとつの頁が終わると次の頁が始まる。終わりがない・・少なくとも若いうちは』との結びの文章は、41歳で人生を終えた著者が永遠の放浪者であったことを示しています。

彼の力強い文学の原点は、放浪生活にあったようです。名作『荒野の呼び声』も、読み返してみたくなりました。

2009/2