りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

火を熾す(ジャック・ロンドン)

イメージ 1

世紀の変わり目に生きたジャック・ロンドンは、40年の人生の中で、児童労働者であり、牡蠣密漁者であり、遠洋航海船の船員であり、失業者であり、独学の社会主義者だった方。もちろん小説家でもあり、200作以上の作品を残しているとのこと。

 

「火を熾す To Build a Fire」
マイナス50度のユーコン川を歩き続ける男と犬。濡れて凍えた身体を乾かすための火を熾すことができないと、待っているのは凍死だけという厳しい環境です。

 

「メキシコ人 The Mexican」
メキシコ革命組織にやってきた無口な若い男。同志からも避けられるほどの厳しさを身体から発している男が、革命のための銃を買うためにリングに立ちます。

 

「水の子 The Water Baby」
ハワイの伝説をまるで昨日のことのように伝える老人。鮫をだましてロブスターを採った「水の子」の孫は、老人の祖父の知り合い? アメリカとは異なる時間が流れています。

 

「生の掟 The Law of Life」
越冬地への移動についていけない老人は、ただそこに取り残されるしかないのです。

 

「影と閃光 The Shadow and the Flash
片方は絶対の黒。片方は絶対の白。見えない物質を作ったライバル化学者たちの末路。

 

「戦争|War」
一斉射撃を逃れた騎兵を最後に襲った一発の銃弾は・・。

 

「一枚のステーキ A Piece of Steak」
老いた貧しいボクサーが、ステーキも食べることができずにリングで若手と闘います。自分が若かった時に破った老ボクサーが泣いていた気持ちを、今になって理解するのですが・・。

 

「世界が若かったとき When the World Was Young」
先祖帰りした野蛮人を体内に持つ二重人格の男の悲喜劇。

 

「生への執着 Love of Life」
金を奪って北極近くをさまよい逃れる男が、病んだオオカミにつけ狙われます。エンディングは意外ですが、彼もまた人生そのものに勝利したわけではありません。


どの短編をとってみても、主語と述語が明快な、短く力強い文章で綴られています。本書を訳した柴田元幸さんは、「彼の作品は多様であるが、生きることをひとつの長い苦闘ととらえる作風」と言っています。本当にそうですね。たとえそれが、極地を歩き通す物語やボクサーの厳しい戦いを描いた小説ではない場合でも・・。

 

2009/2