りぼんの読書ノート

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モダンタイムス(伊坂幸太郎)

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ファシズムの到来を懸念して「検索するのではなく思索せよ」と訴えた魔王の続編。荒廃した日本にファシズムをもたらしそうであった犬飼首相に、安藤兄が対決してから50年ほどあとの物語。日本には徴兵制が導入されているものの、それほど国情が悪化しているようでもなく、人々の生活も普通に流れているようです。

システムエンジニア渡辺拓海は、失踪した先輩に代わってあるプログラムの修正を引き受けたものの、それが一種の監視システムであることを知ってしまいます。ある特定の言葉を検索した者に、不幸が襲い掛かってくるのです。この謎を解くべく、拓海は友人の小説家「井坂好太郎」や、拓海の浮気を疑った妻が差し向けてきた拷問のプロたちと調査を始めるのですが、やがてそのシステムは、ある事件の真相を追究しようとする者を監視するものであるとわかってきます。

さらにもっと重要なことには、拓海自身が、あの安藤兄弟の血筋を引いていることが判明。拓海は、井坂が彼のためだけに書いた小説を携えて、老いた安藤弟夫婦が隠棲している東北へと向かうのですが・・。

数百万人のユダヤ人を殺戮した、ナチスの「システム」とはどういうものだったのか。ヒトラーアイヒマンの指示だけで、こんな虐殺が実行できるものではない。「システム」に組み込まれ、「仕事」として坦々と「日常業務」をこなした大勢の者がこの「システム」を支えていたのです。

でも「やっている人間が何も感じないなんて許されない」のか。無限に広がる草原で草むしりをしようと思った者は、「全部は無理だから何もしない」のか。それとも、「せめて身の回りだけは草をむしっておこう」と思うのか。漫画雑誌に連載された小説とのことで、コミカルでジェットコースター的な展開だけれど、この本の趣旨は、そういうことなのでした。

拓海はせっぱつまって「腹話術(安藤兄と同じ能力)」の超能力を開花させるのですが、彼の本当の能力は「幸運を招く力」だったのかもしれませんね、「絶対」。あとは、強くて怖いけれど魅力的な妻を選ぶ能力?

2009/2