りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

光(三浦しをん)

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生活のいっさいを断ち切って奪い去るほどの、暴力的な天災に襲われた者が身に纏うのは、諦めの念なのか。それとも、天災と同じような暴力なのか。三浦さん、かなり力を入れてダークな物語に挑戦してますが、成功しているかどうか・・。

突然の津波に全てを飲み込まれた島で生き残ったのは、早熟な恋人同士だった中学生の信之と美花と、父親に殴られる毎日の中で、一学年上の信之を頼りにしていた輔。津波の後で起こったある秘密を抱えたままで、島を去ることになった3人は、やがて音信普通になっていきました。

20年後。アイドルとなった美花を想い続けながらも別の女性と結婚して娘を持った信之は、突然姿を現した輔から恐喝を受けます。輔の本心は信之に助けを求めていたようなのですが、島での出来事をネタに美花にまで恐喝が及ぶに至って、信之は決着をつけようとします。

諦めと暴力は紙一重。どちらも「人間らしさ」という表土を失った状態です。「何もなかったようにして生きる」ためには、「何かがあった」ことを思い出させる要素は排除していかなければならない。たとえ、そのための手段が暴力であっても。芸能界を生き延びてきた美花が他人を操って利用する手段だって、一種の暴力に違いない。信之の妻の南海子もまた、全てを知った後でも「何もなかったように生きる」ことを選ばざるを得なかったのですが、彼女の「諦め」も、暴力と紙一重なのかもしれません。

あらためて考えると、結婚って「自分の生い立ちを語る相手がいる」ことなんですね。それだけで相手を理解できるものでもないし、勢い込んで話すようなものでもない、ほとんどが他愛もないことばかりだけれど、それは必要なことなのかもしれません。信之のように結婚前の人生を全く語らない連れ合いをもたらたまらないだろうな。

2009/2