『月の骨』と『炎の眠り』で脇役として登場していたウェーバー・グレグストンが主役。映画監督をやめてニューヨークで癌患者による劇団を運営していたウェーバーのもとに、親友でやはり映画監督のフィルが、ホラー映画シリーズの新作を完成させる寸前に自殺したとの連絡が届きます。
自殺の直前にフィルはウェーバーにビデオを送っていました。そのビデオに、ウェーバーの母親が飛行機事故で死ぬ寸前の様子が映っていただけでも不思議なのに、未完成のホラー映画を完成させるよう謎めいた美少女から依頼されるに至って、ウェーバーはフィルの「問題」を引き継ぐことになってしまうのですが・・。
これは「恐怖とは何か」を考えさせてくれる本ですね。幼年時代に聞いた祖母のいびきは、人間というものの本質を少年に考えさせたでしょうし、父親が殺されたと聞いた時の近所の少年の叫びは、生命の営みが突然断ち切られる恐怖を感じさせたのでしょう。死の直前まで平然としていた飛行機の中の母親の姿もまた・・。
フィルが撮影してしまったという「この世では許されない恐怖」については、手がかりすらありませんが、ウェーバーが撮りなおした「新しいエンディング」の「恐怖」こそ、ジョナサン・キャロルが得意としている種類の「恐怖」にほかなりません。
ところで、ウェーバーの相棒となって秘密を分かち合う、往年のTVスターのフィンキーは『天使の牙から』の主人公のひとりですね。フォーカスを変えながら物語を紡いでいく手法は単なるリンクではなく、「キャロル・ワールド」を深化させていくもののように思えます。
2009/2