りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2008/12 舞踏会へ向かう三人の農夫(リチャード・パワーズ)

今年の最大の収穫は、リチャード・パワーズと出会ったこと。9月の『囚人のジレンマ』、11月の『ガラテイア2.2』に続いて、今年3度目の月間ベスト。ちょっと調整しようかとも思ったのですが、その余地すらありませんでした。新刊の『われらが歌う時』も楽しみです。

1.舞踏会へ向かう三人の農夫(リチャード・パワーズ)
タイトルにもかかわらず、彼らがたどり着いたのは「舞踏会」ではなかったであろうと、主人公のインスピレーションを呼び覚ましたのは、3人の農夫が写っている1枚の写真。なぜなら、その写真の日付から3ヶ月後には、第一次世界大戦が始まったのですから。彼らが向かった先は、巨大な暴力が姿を現した「20世紀」にほかならなかったのです。著者のデビュー作である本書を最初に読まなかったことが悔やまれます。

2.幻影の書(ポール・オースター)
妻と子を飛行機事故で失って絶望のふちにいた男を救ったのは、一本の無声映画。失踪して忘れられた喜劇俳優を訪ねた主人公が見たのは、誰にも見られないことを条件に製作され、彼の死とともに失われるべき運命の映画でした。「入れ子構造」になっている、さまざまな人生と小説と映画の「意味」が循環する。映画と現実で異なる、小説の消滅の影響の対比が美しく素晴らしい作品です。

3.脱出記(スラヴォニール・ラウイッツ)
凍てつく北シベリアから、バイカル湖、モンゴル、ゴビ砂漠チベット、ヒマラヤを越えて6500キロも離れたインドまで、1年以上かけて歩きとおした男たち。お金も、装備も、食料もない、「極限」などというも愚かなほどに、過酷な旅。でも、ソ連強制収容所を脱出した彼らには、それが唯一の生き延びる道だったのです。実話の重みがひしひしと伝わってくる、壮絶な物語です。

4.時のかさなり(ナンシー・ヒューストン)
ドイツ、カナダ、イスラエルアメリカと、国を超えて移り住んだ一族の年代記が、それぞれの時代に6歳だった少年少女の眼を通して語られていきます。やがて、一族のルーツは、ナチスによって行なわれた非人道的な政策にあったことが明らかになっていきます。「6歳児の視点」が効果的でした。

5.警察署長(スチュアート・ウッズ)
佐々木譲の『警官の血』がこの本と較べられていましたが、似て非なる物語だと思います。この本は、ジョージア州の田舎町デラノを舞台にしての、1920年から44年間に渡る三代の警察署長の物語・・なのですが、真の主人公は、この間の黒人の地位の向上や、田舎町からも大統領をも目指せるという、アメリカの民主主義発展の歴史なのでしょう。



2008/12/31