りぼんの読書ノート

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エドウィン・マルハウス(スティーヴン・ミルハウザー)

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11歳で夭折した天才作家、エドウィン・マルハウスの伝記!しかも伝記の著者は、やはり11歳の親友ジェフリー・カートライト!ここまで意表を衝いた設定の本というと、いかにも小難しい「実験小説」のようですが、これがなかなか読ませてくれます。

生後6ヶ月と3日のジェフリーが、生後8日目のエドウィンと出会うところからはじまる5歳までの「幼年期」は少々退屈なのですが、この部分は「仕掛け」ですね。エドウィンが赤ちゃんの頃の手形とか、彼が読んだ絵本のタイトルなどを参考資料として並べ立て、「天才とは持続する精神のこと」など、いかにも一時代前の伝記小説にありがちな紋切り型の解説を並べ立てるあたり、伝記というジャンルの危うさを、ぷんぷん臭わせる。

もちろん、ジェフリーは「信用ならざる語り手」です。なかなか天才ぶりを発揮しないエドウィンに対して、「伝記作家である自分こそが天才」との自負を見え隠れさせているのです。

「壮年期(6~8歳)」に入って、エドウィンの小学校での交友関係が濃密に描写され始めると物語はがぜん面白くなってきます。幽霊のように地下室に住む病弱な少年、エドウィンが恋焦がれた魔女のような問題児少女。エドウィンと対極的な粗暴な不良少年。これらの人物が、「晩年期(9~11歳)」にエドウィンが著した不朽の名作『まんが』の中で形を変えて登場してくるのですが、もう1人、黒衣の人物とはいったい誰のことなのか・・。

そして衝撃的なエンディングが訪れます。エドウィンがジェフリーにインタビューされた時に語ったという「伝記作家って悪魔だな」のひと言が、思いっきり効果的になってくるんですね。天才はどちらだったのか。エドウィンの死の真相は何だったのか。もちろん、本書の中では答えは明白なのです。

2009/2