りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

映画篇(金城一紀)

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ベタな本ですが、この本に限ってはそれも許される。映画が与えてくれる感動は、だいたいにおいてベタなものだから。では、この本は映画のような迫力に満ちているのか。答えはYES。少なくとも、本書を読んだ人はすぐに映画を見たくなるはずですから。

映画をテーマにした短編連作集になっています。映画で繋がっていた少年時代の友人を悪の道から救おうとする太陽がいっぱいは、作者の少年時代が反映されているようです。友人を救ったのは、区民会館での映画の上映会でしたし、2人を再び結びつけたのは、映画化された主人公の小説でした。

会社の不正を暴くために自殺した夫のために、妻が立ち上がる「ドラゴン怒りの鉄拳」でぐずぐずに落ち込んでいた主人公を救い出したのは、彼女を愛するレンタル店の店員が作成したパロディ映画。そういえばポール・オースター幻影の書でも、主人公を家族の死から立ち直らせたのは一本の喜劇映画でした。

互いに孤独な高校生のカップルが、悪徳弁護士である女生徒の父親から保釈金を奪って逃走する「恋のためらい/フランキーとジョニー」でも、2人を結びつけたのは映画。暴力団の幹部に夫と息子を殺されたおばちゃんが復讐を果たす「ペイルライダー」では、彼女は、運命の日の前日に苛めっ子から助けた少年をバイクに乗せてあげて、一緒に区民会館での映画上映会を見るのです。

そして、全ての物語を繋げている「区民会館での映画上映会」とは、最後の「愛の泉」で連れ合いを亡くして落ち込むおばあちゃんを励ますために、5人の孫たちが協力して開催したイベントだったのです。上映されたのは「ローマの休日」。おばあちゃんがおじいちゃんと一緒に見た、思い出の映画だったはずなのですが・・。

本の扉に置かれた『ローマの休日上映会』の手書きポスターがとっても効果的です。飲み会の後、ほろ酔い気分のせいで涙腺が緩んでいたのでしょうか。電車の中でこの本を読んでいてポロポロ涙が出てしまって、恥ずかしかったぁ^^;

2009/2

【追記】
私も映画は好きで結構見ています。タイトルになっている映画で見ていないのは「ペイルライダー」だけ。本書にも映画のランキングをつけようとして不可能と悟る高校生が登場しますが、どの映画もいいですね。順番などつけようがありません。ただ「恋のためらい」は初めて字幕なしで見た映画ですので特別な思い入れがあります。