作家の妻キャロラインと愛人アーデン。作家の兄アダムと同性愛の恋人である若いピート。彼らの関係は微妙であり、作家の思い出だけが彼らを結び付けているように思えるのですが、その思い出は虚構にすぎないものであるかのように暗示されています。
キャロラインが妹の恋人であった作家を奪って結婚したことは、後に明らかにされますが、アーデンを愛人とした時にはどう振舞ったのか。どうして妻と愛人が同居しているのか。そもそも作家の死は事故だったのか。タイの男娼だったピートはアダムを愛しているのか。こういった謎は暗示されるだけですが、奇妙な平衡関係が崩れやすいことは理解できます。
そこに現れたのは、作家の伝記を書くために遺族たちから「公認」を与えて欲しいというアメリカの気の弱い大学院生オマーと、彼のガールフレンドで攻撃的なディアドラ。作家の「公認の伝記」という微妙な問題を巡って、彼らの関係には波紋が立つのですが、それはやがて大きな波となって2人をも呑み込んでいくのでした・・。
爽やかな読後感をもたらす鮮やかなエンディングに向かって、物語は淡々と進みます。さりげない会話がもたらす葛藤や心理の描写、シチュエーション・コメディを思わせるいたって大真面目な登場人物が生み出す滑稽さがいいですね。
彼らがそれぞれにたどり着く「目的地」とはどこで、それは「最終目的地」となりえるのか。もちろんそんな問題に答えは出ないのですが、本書を読んだ者は、自分が向かうところについても考えを巡らせる気になるのではないでしょうか。
2009/6