りぼんの読書ノート

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英雄の書(宮部みゆき)

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宮部ファンタジーは、いつものことながらかなり「思わせぶり」で理屈が多い感があるのですが、最後まで読めばテーマは明快。

でも、その前に本書の「世界」を概括しておきましょう。(ネタバレです。ご注意あれ!)。(1)真の物語の数だけ「世界」が生まれ、それぞれの世界は独自に生きはじめる。(2)物語をはじめに生み出すことができるのは、「この世界=人類世界」だけである。(3)全ての物語が生まれ出で、また回帰してくる「無名の地」という呼ばれる場所がある。(4)そこから各世界に飛び出した物語は、各世界で具現化した後、使命を終えて戻ってくる。(5)その意味で、それぞれの世界は「書物」によって繋がっている。ここまでのところでも、「人類世界」が絶対的なものなのか、相対的なものにすぎないのか、矛盾を感じてしまうのですが、先に進みましょう。

さて、「英雄の書」と呼ばれる、圧倒的な存在があります。それは、「強大で比類なき力を擁する完全な物語」であり、あまりにも魅力的であるため全ての者を囚えて呑み込む「光」ではあるものの、その分「闇」の暗さは深くなり、いったん世に出ると、世界を滅亡させるまで「物語の輪」は止まらなくなるという代物。

「無名の地」においては「英雄の書」はまるで凶悪犯のように扱われ、深く閉ざされた場所で厳重保管されているのですが、その断片が世界に出ることまでは止められず、それを具象化する「器」としての個人の活動が高まって飽和点に達すると、ついに本体が召喚され「世界の終わり」がはじまるというのです。

本書は「無名の地」から「英雄の書」が破獄し、最後の「器」となった少年の妹で、まだ小学5年生の友理子が「英雄」の完全復活を喰い止めるという任務を帯びるところからはじまります。その任を帯びる「印を戴く者」となれるのは、「器」の肉親で、まだ子どもである者だけなんですね。現実世界での中学生の兄は、同級生をナイフで殺傷して逃亡中。

本書の大半は、仲間たちに支えられた友理子の冒険に費やされるのですが、本書のテーマは意外なことに「英雄」ではなくて「贖罪」だったようです。英雄的行動にあこがれた者がその代償に「贖罪」を求められ、清められなければならないという主題はブレイブ・ストーリーよりも深く、ダーク・ファンタジーの領域でしょうが、この種の物語で、ミヒャエル・エンデ『果てしない物語』を超えることは難しいな。

2009/6