久々に『あやし』を再読して、宮部さんの時代小説の良さを再認識しました。本書も再読ですが、かなり忘れていたようで、新鮮な気持ちで読めました(笑)。
本書は12の月に仮託された12編の短編からなっていて、丹念に語られる一編一編の物語からは、一年間の江戸風俗を偲ぶことができる作りになっています。怪異ものもありますが、それだけではありません。どの物語からも、江戸の庶民の生活や風俗が薫り立ってくるようであり、それでいて現代にも通じる人情にホロリとさせられる・・・まさに名手の技です。
【1月 鬼子母火】神棚のしめ縄を発火させたのは、流行り病で死んだ母親が娘を思う気持ちだったのでしょうか。
【3月 春夏秋燈】2つの行灯に秘められていた怪異譚を、古道具屋がわざわざ客に語ったのには理由があるんです。
【4月 器量のぞみ】不器量で大女のお信が、評判の美男子に見そめられた理由を知った時から、彼女の苦悩がはじまります。お信をある決断に踏み切らせた「ゾッとする思い」とは・・。ユーモアたっぷりに描かれますが、この話が一番ウルウルきました。
【6月 まひごのしるべ】迷子札に書かれた両親はもう死んでいた? この子はいったい誰?
【7月 だるま猫】火消しにあこがれているけど、臆病で身体が動かない。そんな青年の前に持ち出された火消頭巾には、恐ろしい秘密が・・。
【8月 小袖の手】小袖の古着には気をつけなくてはいけません。前の持ち主の霊がついているかもしれませんから。
【9月 首吊りご本尊】宮部版「小僧の神様」。奉公の辛さに負けそうになる小僧を助けるのは、かつて首を括った奉公人の幽霊だったのでしょうか。
【10月 神無月】毎年10月にささやかな強盗を働く男を救えるのは、彼を追っている岡っ引だけなのかもしれません。上質の警察ミステリを読んだ気分です。
【11月 侘助の花】生き別れた娘がいるという出まかせ話を語った男の前に、娘を名乗る女性が現れます。
【12月 紙吹雪】師走の町に借金の証文を切り刻んだ紙吹雪を、雪のように降らせる娘には、悲惨な過去がありました。一番悲しい物語なのですが、それでも江戸には新しい年がやってきます。
いつの世でも、怪異というものは、孤独で不幸な心に宿るようです。江戸時代の「都市伝説」を堪能した思いです。
2008/9再読