りぼんの読書ノート

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限りなき夏(クリストファー・プリースト)

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現代イギリスSF界の巨匠であるだけでなく、『奇術師』や『双生児』でジャンルを超えた人気を博しているプリーストさんのベスト短編集です。私の好みは、時空に隔てられた男女の恋愛を描いた最初の2作。

「限りなき夏」
1903年の平和な夏の日、まさに結ばれようとした瞬間に「時間の活人画」として凍結されてしまったトマスとセイラ。先に凍結から解かれたトマスは、日々セイラを求めてテムズ河畔をさまようのですが、時代は1940年、イギリスは戦争に突入していたのです。

「青ざめた逍遥」
未来へ旅して、若い娘に一瞬でひと目惚れしてしまった少年。数十年がたって社会的地位も妻も得た男でしたが、「未来のその日」が到来したことに気づきます。彼の取った行動は果たして・・。

3000年も続いている戦争状態が続いている世界で、ある理由から中立地帯となっている群島を舞台にした連作である「夢幻群島(ドリーム・アーキペラゴ)」シリーズは、変わった作品群です。島の風習を知らずに取り返しのつかない恐ろしい過ちを犯してしまった男の話(「火葬」)。叔父の遺品を引き取りに島に渡り、幼い頃の恐怖の体験に直面する主人公の話には、読者の意表を衝くちょっとした叙述上の仕掛けもありますよ(「奇跡の石塚」)。

「ディスチャージ」という短編では、戦争にも性的にも解釈できる重層的なタイトルと連動した幻想的な内容に幻惑されてしまうこと、間違いなし。初期のSF作品である、終末のビジョンを描いた「逃走」や、アイデンティティの混乱を描いた「リアルタイム・ワールド」もすでに、完成度は高いですね。

プリーストさんの短編ははじめて読みましたが、長編とは違った面白さを楽しめます。個人的には、仕掛けがたっぷり仕組まれた長編のほうがずっと好きですけれどね。

2009/9